02-16-15

芸術係数 札幌 「『関係性の美学』を読む ―なぜ参加・コミュニケーション・相互性はアートの問題なのか?」(全4回)

 
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美術館の展覧会でもアート・プロジェクトやイベントでも、観客の参加や観客との相互作用を取り込んだ作品や展覧会が数多く見られるようになりました。美術展を含む文化事業の採算性や数値的的評価が重視されるようになっている昨今、こうした作品が増えている理由はおそらく、それが好評を博しているためではないかと思いますし(統計的なデータを集めているわけではありませんが、少なくとも主催者側はそう考えていると思われます)、キュレーターにとってもプロジェクトの構成上便利なツールになっているからでしょう。一方でこのような作品には、アートとしての「質」に対して多くの批判が向けられてもいます。この評価の違いは社会的な立場の違いを(前者は主にキュレーターを含む事業主体、後者は主に批評家やアカデミシャン)反映するものでもあります。さて、両者は評価こそ正反対ですが、どちらも「観客の参加や観客との相互作用を取り込んだ作品」が評価され数も増加している現象を既成事実としてのみ捉え、現象そのものについて説得的な説明や検証をほとんどしていないという点で共通しています。言うまでもありませんが、「タイ料理を作って観客にふるまうこと」、「本やおもちゃを交換すること」、「展覧会に行って福引きをしてお土産をもらって帰ること」、「焼き芋を移動販売すること」などが、そのままコンテンポラリー・アートとして認められるはずはありません。キッチンのインスタレーションの見事さとか、ものを交換する人の所作のオリジナリティとか、景品のディスプレイの美しさとか、焼き芋の焼き加減と車のデコレーションの技巧そのものがそのまま評価の対象になるわけではないのです(評価の構成要素ではあるかも知れませんが)。こうした現象を成立させている固有の枠組みについて具体的に示されることがなければ、観客はアート・プロジェクトからただ楽しい経験を持ち帰るだけで満足してしまうのは当然でしょう。たとえ何かしらの疑問を抱いたとしても、自分たちが経験したことについて考えるための手がかりが何も与えられていなければ、「アートしてる」というような耳ざわりのよいキャッチコピーに誘導されるままに、「それでいいんだ」となるだけでしょう。それでいいわけがないんです。というわけで、こうした現象の源流と目されている(人によっては元凶と見なすかもしれませんが)ニコラ・ブリオーの著書「関係性の美学」を手がかりに、「なぜ参加・コミュニケーション・相互性はアートの問題なのか?」についてお話ししたいと思います。
「関係性の美学」は非常に癖のある文体で書かれており、また英訳には誤訳や解釈上の問題も多いため、現在出版に向けて進行中の日本語訳を反映した内容は、「関係性の美学」について分かったつもりになっている人にとっても(そう人ならなおのこと)得るものは大きいと思います。また四回の講義は基本的に「関係性の美学」の内容に添うものですが、補講では参加者の方の質問に答えたり、「関係性の美学」以前以後のブリオーの活動について補足したりするつもりです。皆様のご参加をお待ちしています。

辻憲行

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講義に関連して「参加型アート」について少しコメントします。昨日ツイートしたものをまとめました。

「参加型アート」といえば一般的には観客が能動的・自発的に制作プロセスに関わり、共同作業を経て何かを提示するものとして理解されているように思います。こうした理解に基づいて、「参加型アート」は作品よりもプロセスを重視する、見るものが何もない、だから批評の対象にならない、として批判されます。

このような「参加型アート」はワークショップ・モデルと呼び得るものですが、「関係性の美学」ではそれとは異なる「参加」の様態がいくつか紹介されています。本の中では「待ち合わせ」「連絡」「出会い」などと触知的に名付けられているものですが、そこで具体例として挙げられている作品は、観客が能動的に関わるものではなく、むしろアーティストが配置したオブジェに誘われて作品に巻き込まれているかのようです。そして「関係性の美学」ではどちらかというと後者の「参加」に重きが置かれているように思います。

つまり「参加」には観客のコミットメントを伴う能動的・自発的な強い参加と、オブジェ誘導されて行動する弱い参加の二種類があると考えられるわけです。もちろん能動的・自発的な参加それ自体が評価の対象になる訳ではないのと同様に、オブジェに誘導される参加もそれ自体で祝福されるべきものではありませんが。

最後に一言付け加えますが、リレーショナル・アートを非物質性を志向し、作品や作家の存在を解体しようとしていると見なすのは、少なくともブリオー自身の主張と紹介されている具体例の理解としては明確に誤りです。

詳細は講義にて。

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講義の補足情報として「関係性の美学」の構成についてツイートします。参加の検討材料になれば。まず「関係性の美学」は序文+六章立ての構成になっています。各章ごとの内容を大まかに書くと: 

第一章 関係的な形式 関係性の美学は何を対象とするのか、その対象には何が含まれるのか
第二章 1990年代のアート リレーショナル・アーティストは関係的な形式をどのように操作し、作品化するのか(リレーショナル・アートの作用モードの分類)
第三章 交換の時空間 リレーショナル・アートの社会的・歴史的位置付けについて
第四章 共存と可用性 作家論(フェリックス・ゴンザレス=トレス論)
第五章 関係性のスクリーン アートとテクノロジーおよびメディウム=メディアとの関係性について
第六章 形式の政治に向けて
前半 関係性の美学の社会(工学)的、政治的応用可能性について
後半 物象化の技巧としてのではなく、(異質発生的な)主体化作用としてのアート(ガタリの主体化論に基づく)

講義では序文から第三章までを中心にテーマに沿って話します。
おおざっぱに分けると序文から三章までが基礎編で第四章以降が応用編という感じですね。
第四章以降については一応ざっと触れようと思っています。あるいは補講で特に質問があれば答えます。

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先日の台北ビエンナーレでもキュレーターを務めたニコラ・ブリオーの『関係性の美学』から、札幌の新しい流れを読み解くイベントを開催します!

  昨夏開催された札幌国際芸術祭2014では、市民参加プロジェクト型の作品、プログラムが特に注目され、アーティストや参加者の達成感は並々ならぬものであったと言えます。同時期には、札幌市により「アートしてる」という標語のプロモートが行われるなど、「参加」「実施」「楽しさ」ということに着目されています。一方で、そうした関与自体が、「それがなぜアートなのか」という事を証明してくれるわけではありません。そうしたプロジェクトがアートの枠組みの中で実施されるのはなぜなのか。なぜ「関係」はアートから眼差しを向けられたのか。その源流を「リレーショナル・アート」を提唱したフランス人キュレーター、ニコラ・ブリオーの著作『関係性の美学』(1998年刊)を通じて探ります。プロジェクトに参加したひとりひとりが、「私の経験が、どのようにアートでありえるのか」を考える集中講義。講師にはキュレーター、翻訳者の辻憲行氏を迎え開催します。

■日程:2015年3月27日(金)〜3月29日(日)
■講師:辻憲行(「芸術係数」主宰、キュレーター、翻訳者)
■会場:さっぽろ天神山アートスタジオ 交流スタジオC

http://tenjinyamastudio.jp/

■企画:大下裕司
■会費(資料代) 各回1,500円/学割1,000円
(どれか1回だけの参加でも、全講義参加もどちらも大歓迎!)

<予約、参加方法について>
・メールでのご予約が可能です。
タイトルを【芸術係数予約】として頂き、本文に参加者のお名前、ご連絡先(電話番号)、参加講義(①〜④)を明記のうえ、 horkeu@gmail.com にご送信下さい。ご予約完了の旨、追って返信致します。

・こちらのイベント欄でもご予約を受け付けます。参加したい講義の番号と共にその旨ご記入下さい。

■実施スケジュール
3/27(金)
19:00〜20:30(90分)講義①テーマ: 変化する「アート」

3/28(土)
10:00〜11:30(90分)講義②テーマ:1990年代のアート
14:00〜15:30(90分)講義③テーマ:アーティストは何を見せ、私たちは何を見るのか
16:30〜 補講 …※講義参加者向け

3/29(日)
10:00〜11:30(90分)講義④テーマ:アートの価値

※各回30名程度

■アクセス
・地下鉄をご利用の場合
札幌市営地下鉄南北線:「澄川駅」西出口または北出口より徒歩11分/「南平岸駅」西出口より徒歩14分

・バスをご利用の場合
じょうてつバス[環56]:「平岸1条16丁目」下車、徒歩8分

・道外から飛行機でお越しの場合
-新千歳空港から空港連絡バス[円山バスターミナル行き]に乗車し、「地下鉄澄川駅前」にて下車、施設まで徒歩11分。(計約70分)
-新千歳空港からJRに乗車し「札幌駅」にて下車、地下鉄南北線「さっぽろ駅」より乗車し「澄川駅」にて下車、施設まで徒歩11分。(計約70分)
※施設専用の駐車場はありません。

 
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■講師
辻憲行(つじ・のりゆき)

 1970年生まれ。キュレーター/翻訳。山口大学大学院人文科学研究科美学美術史専攻修了。1998年から2006年まで秋吉台国際芸術村(山口県)にてチーフ・キュレーターとしてレジデンス、展覧会、WS、セミナーなどの企画・運営を行う。2008年から2010年まで東京都写真美術館学芸員。主な企画展(共同企画も含む)は、「アート・イン・ザ・ホーム」(2001)、「チャンネル0」(2004)、「トランスフォーマー」(2005)、第1回/第2回恵比寿映像祭(2009/2010)、藤城嘘個展「キャラクトロニカ」(2013)、「ア・ワールド・ピクチュア」展(2013)。芸術係数主宰。

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■『関係性の美学』
(ニコラ・ブリオー著、1998年フランスにて刊)について

 フランス人キュレーターで批評家のニコラ・ブリオーが、当時美術批評やアカデミックな世界では無視されていた、「関係性」の探求を主題にする同時代のアーティストや作品の理論的背景を考察することを第一の目的としてまとめた論考集である。本書は2002年の英語版の刊行後、中国語や韓国語含んで現在までに12カ国語に翻訳されており、幅広い読者を獲得することとなっている。

「関係性の美学」は最初に公にされてから既に20年が経過するコンセプトではある。しかし2000年代広範に入ってリクリット・ティラバーニャやピエール・ユイグ、ドミニク・ゴンザレス・フォレステルらが世界的に評価を高め、後継世代とも言える、ティノ・セーガルやマーティン・クリード、スラシ・クソンウォンらが注目を集めるなど、その後も影響力を維持していると言えるだろう。

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